Ⅰ. Introitus

西暦2039年、東京。

未知のウイルス“アポカリプス”による奇病の蔓延と無差別爆弾テロによる政治機能の喪失──。そして無政府状態下での、大規模な住民暴動。“ロストクリスマス事件”と称された災厄が、この街の全てを奪ってしまってから、既に10年の歳月が流れ去っていた。

日本を暫定統治するGHQ(国連軍統治部隊)の指導のもとで東京は、ようやくかつての繁栄と治安を取り戻しつつあるように見えた。しかし、そうした復興の兆しの裏側で、長い歴史を持ったこの街でさえ経験したこともないような、暗く深い闇が蠢いていることを人々は知らない。

深夜、東京郊外の工場地帯。

かつては精密機械産業で賑わった地区であったが、ロストクリスマスの混乱によって大半の企業が立ち退き、今では無人の廃工場ばかりが立ち並んでいる。

普段はヒッソリと静まりかえっているこの場所の様子が、今夜は少しばかり違っていた。立ち入り禁止の工場敷地内に入り込んだ数台の四輪駆動車と、その周囲を慌しく行き交う黒ずくめの男達──。

男達は戦闘服にボディアーマーで身を包み、肩から消音機(サイレンサー)付の自動小銃(アサルトライフル)を吊り下げていた。その鋭い目付きと機敏な身のこなしから彼らが戦闘のプロであり、今まさに何らかの作戦を実行中である事が窺い知れる。

英国製の大型四駆車のボンネットに工場の見取り図を開き、周囲に指示を飛ばしている現場指揮官らしき男に、遅れてやってきた壮年の男が声をかけた。

「大尉、状況は?」

“大尉”は、見取り図から顔を上げると、壮年の男へ向かって敬礼する。

「お待ちしておりました“中佐”。捕獲対象(フォックス)は依然工場内です。さきほどA分隊が突入、B分隊は裏手を封鎖しています」

「エンドレイヴは?」

「30分以内には到着します」

「そうか」

“大尉”の簡潔な応答に“中佐”は軽く頷いてみせる。

互いを階級で呼び合う二人だったが、それぞれの着衣に階級章は見あたらない。

「中佐、質問してもよろしいでしょうか?」

大尉は見取り図を部下に渡すと、壮年の男へ向き直った。

「なんだ?」

「いったいこの“捕獲対象(フォックス)”は何者なのですか? たった二人を捕まえるのにこの人数、しかもエンドレイヴまで投入とは……少々大げさではないかと」

大尉の言葉に、中佐は肩をすくめる。

「男が“未処置(アントリート)”、女は“過剰摂取(オーバードース)”と呼ばれている」

未処置(アントリート)過剰摂取(オーバードース)……奴等のコードネームですか?」

「そうだ。私自身、全てをスポンサーから聞かされているわけではないが……大尉は、最近アンチボディズがテロリストとの戦いで少なからぬ被害を出したのを知っているか?」

「噂程度なら。“葬儀社”とかいうテロリストの構成員に、対エンドレイヴ用の特殊な兵器を扱う者がいるとか……」

「今回の捕獲対象(フォックス)の片方、過剰摂取(オーバードース)はそれと同様の能力を持っている」

 大尉は中佐の思わせぶりな答えに、露骨に顔をしかめてみせる。

「それは具体的にはどのようなモノなのですか?」

「すまんがスポンサーとの契約でな、これ以上は君に対しても語る事ができん」

「教えてもらえなければ、対処のしようがありませんが……」

「そのために私がきたのだ。必要であれば、私がその場で直接指示を出す」

「了解しました」

──「まったくもって異例ずくめだ」と大尉は考える。

敵の正体も不明で、能力とやらについても秘密とは、よくよく胡散臭い仕事だ。

中東の武装テロリストどもを相手にするよりは気軽な仕事(ミッドナイトラン)だろうと思って受けたのだが、とんだハズレクジだったかもしれない。

「しかし、あのアンチボディズをてこずらせるとは……ずいぶんとやっかいですね」

「そうだな。だが、こちらの方がもっとやっかいかもしれんぞ」

「なぜです?」

「なにしろ、狂ってるからな」

「狂ってる……命知らずだということですか?」

「いや、そのままの意味だ」

「……」

大尉がその言葉の真意をとりかねていると、工場内へ突入中のA分隊からの無線が入った。

『2階Dブロックで捕獲対象(フォックス)を確認──現在追跡中です』

「A分隊、目的は捕獲だ、あまり追いつめるな。上階へ向かわせるだけでいい」

『了解』

無数の製造機械類とコンベア・ラインが放置されたままの工場内は、さながら巨大な迷路のようだった。そんな待ち伏せ(アンブッシュ)に絶好な場所を、A分隊の兵士達は警戒しながら進んでいく。

敵が待ち構えている場所へ踏み込んで行くのは、極めてリスクの高い行為だ。どこに敵が潜んでいるか分からない上に、(トラップ)が仕掛けられている可能性も高い。

無論、兵士達はそういった状況での対処や対応については十分に訓練を積んでいたし、実戦経験も豊富だった。だが今回の作戦は、これまでの物とはまったく異質な空気を彼らに感じさせていた。

戦術の基本も知らない素人を相手にする場合とも、修羅場を潜り抜けてきたエキスパートを相手にする場合とも違う。例えば、得体の知れない怪物の巣穴に入り込んでしまったかのような不安感が、兵士達の心をザワつかせる……。

場内を奥へ逃げて行く捕獲対象(フォックス)を、先ほど確かに確認したはずだった。だが、まもなくこの階の最奥に到着するというのにもかかわらず、あれから人影どころか気配も感じられない。どこか見逃した場所があるのだろうか。それとも、自分達の知らない出口か通路でもあるのか……?

「このブロックに非常階段は?」

先頭を進んでいた分隊長が振り向き、後続の兵士へ確認する。

「ありません。階段はAブロックと……」

そう話していた兵士の瞳が“何か”に驚いて見開かれる。それだけで全てを察した分隊長は、慌てて自動小銃(アサルトライフル)を構えながら進行方向へと視線を戻した。

6メートルほども高さのありそうな天井──その天井から床へと舞い降りて来た人影が態勢を整えるのと、分隊長が相手に自動小銃(アサルトライフル)を突き付けるのはほぼ同時であった──が、コンパクトなカービンタイプとは言え自動小銃(アサルトライフル)を使うには、相手との距離があまりに近すぎた。

床を蹴るようにして分隊長へ身体をぶつけて来た人影は、自動小銃(アサルトライフル)の銃身を左手で払うと、右手に握った巨大なコンバットナイフを前へと突き出す──。

「ガフッ……!!」

胸元をナイフで貫かれた分隊長は、血を吐きながらその場に崩れ落ちた。

だが、襲撃への動揺から兵士達の動きが止まったのはほんの一瞬──すぐさま冷静さを取り戻した彼らは、襲撃者へ向けて自動小銃(アサルトライフル)を発射する。

相手の脚を狙っての三点射(スリーバースト)。それは、こんな非常時においても“捕獲”という命令を優先したプロらしい対応ではあったが、それが結果的に不幸を招く。

「なっ──!?」

襲撃者は、およそ人間離れした跳躍力で跳ぶ──そして、脚を狙って放たれた銃弾を軽々と跳び越えると、後続の兵士へ向かって飛び掛り、その首へナイフを抉り込んだ。

暗い工場内に、後続の兵士の湿った悲鳴が響く。

「引けっ、後退だっ!」

二人目が餌食になると同時に、他の兵士達はその場から素早く後ずさる。

ここまで接近されては、味方への誤射を考慮しなければならない自分達が不利。いったん距離をとって射界を広げてから一斉射撃を加える──だが、彼らにはまだ誤算があった。さらに後方に、もう一人の襲撃者が待ち構えていたのだ。

機械の上で身を伏せていた人影は、立ち上がると同時に兵士達の無防備な背中に銃弾を浴びせた。

「A分隊、連絡途絶……」

何度も無線機に呼びかけた後、大尉は中佐にそう告げた。

「生きたままの捕獲は、難しいかもしれんな……」

中佐は、咥えていたタバコを忌々しそうに地面へ吐き捨てる。

「最低限の人員だけを残して、残りの隊も突入させろ。私も兵達に同行する。それと──」

車のトランクから取り出したボディアーマーを装着する中佐を、敷地内に入ってきた大型トレーラーのヘッドライトが照らした。

「至急、エンドレイヴの出撃準備だ」

裏手を囲んだB分隊だけを残し、正面入り口からC・D・E分隊が一斉に場内へ突入を開始する。

各隊は対象(フォックス)を取り逃がさないよう、場内を押し包むが如く前進しながら催涙弾をバラ撒き、少しでも気配があれば躊躇なく自動小銃(アサルトライフル)で掃射していく。

こうなってしまっては対象(フォックス)に対抗する術はなく、ガスで煙った場内を上へ上へと登って行くしかなかった。

「いいぞ、このまま屋上へ追いつめろ!」

そう無線越しに兵士達に指示を出すと、中佐は大尉と共に自らも上階へと向かった。

工場屋上に、ガスと銃弾に追われた二つの影が姿を現す。

月明かりに浮かび上がった華奢な体躯から、人影が若い男女であることが知れた。

男──未処置(アントリート)は軍用のフィールドジャケット姿で、ブルパップタイプの自動小銃(アサルトライフル)を抱え、女──過剰摂取(オーバードース)はボロボロになった衣服を重ね着し、その上からさらにマフラーを巻くという異様ないでたちであった。

二人は屋上を駆け、北側に設置された避難用設備を目指している──。

対象(フォックス)は、下へ逃げるつもりだぞ!」

少し遅れて屋上へ到着した兵士達と逃げる二人の距離は、すでに50メートル以上離れていた。しかも、その間には空調用の巨大な室外機がズラリと並び、直接の射撃を遮っている。

未処置(アントリート)過剰摂取(オーバードース)は屋上の端まで辿りつくと、“非常用避難設備”と書かれたグレーの箱の中から、収納された金属製の縄梯子を手際よく取り出していく。

「大尉、まだか?」

「……来ます!」

焦れて急かす中佐に、無線機を耳に当てていた大尉がそう答えたのと同時に、縄梯子を地上へ向けて下ろそうとしていた未処置(アントリート)達の向こう側から、強烈な光が溢れた。

それは、アンカーワイヤーを巻き上げながら工場の壁面を垂直に登坂してきた人型ロボットが放つサーチライトの光であった。

「エンドレイヴ……!?」

浴びせられる光に怯みつつ、未処置(アントリート)は驚きの声を上げる。

エンドレイヴとは、正式には“Endoskeleton remote slave armor(内骨格型遠隔操縦式装甲車両)”と呼ばれる人型をしたロボットである。特殊な遠隔システムによって操作され、戦闘用としても非常に高い性能を発揮するそれは、世界中の軍隊や特殊部隊においても盛んに運用されていた。

「くそおぉっ!!」

未処置(アントリート)は、エンドレイヴ目掛けて自動小銃(アサルトライフル)を発射する。口径5.56mm、対人用として十分な威力を持つ銃弾であったが、装甲車並みの甲板で覆われた戦闘用エンドレイヴに対しては、まったく効果がなかった。

エンドレイヴ“ゴーチェ”は、そのまま屋上へよじ登ってくると、その巨大なマニピュレーターで未処置(アントリート)を鷲掴みにする。そして、まるで子供が人形遊びでもするかのように傍らの貯水タンクへと叩きつけた。

「ぐあっ……!!」

二度三度と続けざまに叩きつけられ、やがて意識を失ったらしい未処置(アントリート)の手から自動小銃(アサルトライフル)がこぼれ落ちる──。

未処置(アントリート)が無力化したのを確認し、残った過剰摂取(オーバードース)へ殺到しようと動き出した兵士達は、中佐の「その女に、あまり近づくな!」という指示を受け、一定の距離を置いて彼女を取り囲んだ。

「投降しろ、もう逃げ場はない。それに……」

包囲の輪から一歩前へ歩み出た中佐が、エンドレイヴに掴まれたままグッタリしている未処置(アントリート)をチラリと見ながら過剰摂取(オーバードース)へ告げる。

「こうなってしまえば、お前の“能力”は使えまい」

兵士達の自動小銃(アサルトライフル)に取り付けられたライトによって照らし出される過剰摂取(オーバードース)へ──もはや命運が尽きてしまったかに思える彼女だったが、首元に幾重にも巻かれたマフラーの隙間からは、薄い笑みの浮かぶ唇が覗いていた。

「オマエは、ワタシの力がどんなものか知っているのか……?」

若い女の物とは思えない、過剰摂取(オーバードース)のしわがれた声。

「他者からヴォイドとかいう危険なアイテムを創り出せる力だ。だが、同行の男を拘束した以上、もはやそれを行う(すべ)はあるまい?」

そう得意げに告げた中佐は「そう言うことだ」と、大尉の方へ視線を送った。

「フフフ……アハハハハ……違う。全然違うよ」

過剰摂取(オーバードース)は嘲るように笑う。

「騙されんよ。超絶的な能力には必ず制約(ルール)がある。お前の能力の制約(ルール)は、自身ではヴォイドを作り出せない事だ」

「ウフフフ……誰に頼まれたかしらないけど、肝心なコトを教えてもらってないんだね」

「何……?」

「すごく残念だけど、その制約(ルール)、ワタシには無効なの」

そう言うと過剰摂取(オーバードース)は、まるで自身の心臓を掴み出そうとするように、己が右手を自らの胸へと突き入れる。途端、右腕が結晶状の物質に覆われ、同時に胸から二重螺旋(ダブル・ヘリコイド)パターンの光が溢れ出した。膨張した光は帯となって過剰摂取(オーバードース)を包み込み、“何か”を引き抜いた右腕に収束していく。

過剰摂取(オーバードース)が右腕を天に掲げた瞬間、強い光とともに腕を覆っていた結晶が砕け散った。そして彼女の手に“ヴァイオリン”のような銀色の物体が姿を現す。

しかし、出現したヴァイオリンはまともな姿ではなかった。表面には、ちょうど弓を走らせる方向に深い傷が刻まれ、弦楽器の命である弦は切れてネックからぶら下がっている。どう見ても“壊れたヴァイオリン”だった。

過剰摂取(オーバードース)はそんなことを気にもしない様子でヴァイオリンを顎に挟むと、まるで見えない弓でも持っているかのように、それを弾く──。

「いかんっ、撃……」

我に返り、慌てて攻撃を命じる中佐だったが──遅かった。

存在しないはずの弦が震え、すさまじい振動波を発する。

それは一点に収束された音波。音のレーザービームとでも言えるものであった。

「イイ音でしょう? ゆっくり聞かせてあげるよ」

ヴァイオリンから発せられた音波は、取り囲んでいた兵士達へと向かうと、頭蓋骨と共に脳髄をシェイクして次々と彼らを死に至らしめる。

「中佐!!」

反射的に上官を庇おうと動き出した大尉に殺意の音波が容赦なく襲い掛かった。

「ぐああああっ!!」

中佐に覆いかぶさった大尉は、苦痛に目を見開いたまま、耳と鼻から大量の血を噴き出し、絶命する。

続けて過剰摂取(オーバードース)が激しく弦を弾くと、一段と収束を増した音の波が、エンドレイヴの駆動系を襲い、貫いた。未処置(アントリート)を拘束していたエンドレイヴ“ゴーチェ”は、たちまち行動不能(スクラップ)となり、操り糸が切れた人形のように力なく頽れる。

「アハハハハ、あんまりイイ音なんで、みんな聞き惚れちゃったのかな?」

既に動かなくなった兵士達へ、いつまでも音波を浴びせ続ける過剰摂取(オーバードース)。その目には、尋常ではない光が満ちていた。

動力の切れたマニピュレーターから転がり落ちて、ようやく意識を取り戻した未処置(アントリート)は、死体で溢れる屋上で、ひとり笑い続ける過剰摂取(オーバードース)の姿を、ただ無言で見つめた。

復興を続ける東京の中で、時間に取り残されたように、災厄当時そのままの姿を留め続けている街──六本木。かつてロストクリスマスの中心となった場所である。

周辺道路が全て封鎖されているにもかかわらず、地区内には浮浪者や犯罪者、不法滞在者等が住み着き、一般市民は無論の事、GHQや警察ですらあまり近づかないような地域となって久しい。

そんな六本木の地下深くに、レジスタンス組織“葬儀社”のアジトは作られていた。

彼らはGHQの日本支配に異議を唱え、東京各所で様々なレジスタンス──GHQ側から見ればテロ活動を展開しているグループである。

葬儀社の若きリーダーである恙神涯(ツツガミ ガイ)は、他のメンバー達と共にテーブルに置かれたモニタの画像を見つめていた。

遠距離から望遠レンズを使って撮影されたのであろう動画には、工場の屋上に展開する特殊部隊と、彼らに追いつめられたひと組の男女の姿が映し出されている。

「これをどこで撮った、四分儀(シブンギ)?」

「アキシマです。GHQの正規部隊でも、白服(アンチボディズ)でもない連中が都内をうろついているという情報が入りましたので追跡させていたところ、偶然に」

シブンギと呼ばれた男は、感情を欠いたような口調で淡々と答えた。

「問題はこの後です」

シブンギの言葉に、皆の視線がモニタに集中する。

画面では、指揮官らしき年配の男と、ボロ布を纏ったような少女が言葉を交わしていた。だが突然、少女が激しいノイズに覆われ、その姿が判別つかなくなってしまう。

「なんだ、故障か?」

ガイの右隣でモニタを見つめていたメンバーの一人、アルゴは怪訝そうに呟く。

シブンギは「機械やデータに問題はありません」と言い切ると「この画像の乱れ方に見覚えがないですか?」そう、皆へ問いかける。

シブンギの問いに首を傾げる葬儀社のメンバーだったが、その中でガイだけが不機嫌そうに目を細めた。

「ヴォイドが発動する様子を撮影した時に、これと似たようなノイズが発生したが、まさか……」

「その、まさかです」

シブンギはリモコンを操作すると、動画を早送りする。

ノイズが消えた画面上では、さっきまで圧倒的に優位であったはずの特殊部隊が全員、その場に倒れ伏し、エンドレイヴすら破壊されている。

「報告によると、この少女は自身の胸からヴォイドを掴み出した、と」

「それは、ありえん」

即座に否定するガイに、シブンギが反論する。

「ヴォイドゲノムは、我々が奪取したもの以外にも存在します。この少女は、それを手にいれたのでは?」

「たしかにセフィラゲノミクス社が培養に成功した強化ゲノムは、あと二つ存在はする。それが盗まれる可能性はあるだろう。だが……」

ノイズが発生する直前まで巻き戻される映像。

遠距離のため細部こそ定かではなかったが、たしかにその一瞬、少女は自身の胸から何かを取り出そうとしているように見える。

「“王の能力”は他者のゲノムを解析し、その内に隠された力をヴォイドに変換し引き出す力だ。決して自身のゲノムから引き出すことはできない」

「しかしガイ、一瞬にしてこれだけの兵とエンドレイヴを無力化させたのがヴォイドでなければ、報告にある能力はいったい何だったんでしょう?」

「…………」

その問いに答えぬまま、暫く無言で映像を見つめていたガイだったが、やがて──

「こいつら、この後どうした?」

「数名に追わせましたが、逃走慣れしているらしく、途中で巻かれてしまいました」

「探せ、真実を確かめねばならん。こいつらの“敵”よりも早く、俺達がコンタクトを取る。それが適わなければ……」

「適わなければ?」

「危険な存在だ。場合によっては始末する必要があるかもしれん」