Interview:インタビュー

プロデューサー“でじたろう×脚本“下倉バイオ”×原画“津路参汰”インタビュー

出典:TECH GIAN7月号(2013年5月21日発売)

制作時における“新たな試み”とは?

本企画が立ち上がるまでの経緯について教えてください。

下倉バイオ:
(以下、下倉)

僕のほうで“こういうアイデアがあるんだけどゲームにできたらおもしろいんじゃないかな?”と持ちかけたのが最初のキッカケになりますね。もう2年半くらい前になるのですが、『アザナエル』のマスター直前くらい……マスターアップの辛さから逃げるためだったんですが(笑)、“次のゲームはこんなのどう?”と津路を始めとするコアスタッフに相談して、ゲームのベースを作っていきました。

津路参汰:
(以下、津路)

最初はシナリオと絵を先行して制作していましたね。下倉と自分だけでシナリオとキャラクターデザインやイベント絵の作業を進めていって、ある程度できてから他のスタッフも合流してもらって……という形で進めていきました。

下倉:

今回の作品は規模が大きい作品というよりは、当初からあったゲームのアイデアをキッチリお客さんに届けるというのをコンセプトに制作していますね。

でじたろう:

このアイデアの部分は、ぜひ製品版をプレーして、体験してほしいですね。

本作のタイトルはどのようにして決まったのでしょうか?

下倉:

最近、ライトノベルなどで流行っている長いタイトルがいいよね、という話がまずありました。

でじたろう:

『スマガ』、『アザナエル』と短いタイトルが続いていたので、その反動もあったのかもしれません(笑)。

下倉:

ですので最初に考えたタイトルは『俺の幼なじみと電波女が修羅場過ぎる訳がない』とか(笑)。そこから色々と調整して、現在のタイトルになりました。

現在の制作状況はいかがでしょうか?

でじたろう:

発売2ヵ月前にすでにマスターアップして、工場に納品しています。今回メディアにUSBメモリを採用した関係で、DVDのときよりも納期が1ヵ月以上早まりまして……それに今までの当社の開発は、マスターアップ直前はいつも修羅場状態で、発売1ヵ月前でもシナリオに手を加えることもありました。でも次なるステップとして、きっちりとスケジュールを守りつつ高いクオリティーの商品作りをしよう、と決めたんですね。その結果、スタッフの頑張りもあって、厳しい納期の中、非常に理想的なスケジュールで制作を行うことができました。

ゲームの開発中で印象的だった出来事を教えてください。

でじたろう:

科学アドベンチャーシリーズなどを除くと、当社の開発は、あまり外部の人と一緒に作らないんです。社員も多いですし、器用なクリエイターたちも多いので、音楽以外はほとんど社内でできちゃうんですよね。でも今回はパッケージなどのデザイン周りを、デザイナーの有馬トモユキさんたちに依頼しました。それは自分たちとしては非常に新鮮でしたね。

ニトロプラスさんは、デザイン関係は非常に強いイメージがあるのですが。

でじたろう:

昔からデザインをゲームの面白さの1つとして重要視していることもあって、デザインを外に頼むことってほとんどやらないんです。どうしてもスケジュール的に間に合わない時に少しだけ外部にお願いすることはありましたが。今回の『ととの。』に関しては、作品のコンセプトをデザインに昇華し、なおかつゲーム、印刷物、Web媒体問わずすべてのデザインのディレクションをしていただく方として、有馬さんにお願いしました。有馬さんとの最初の打ち合わせ時に、β版が完成していたのでプレーしていただいたところ、とても気に入ってくださって。結果的に、非常に作品にあったデザインディレクションをしていただけました。

実際、有馬さんがデザインを担当したのはどの部分になるのでしょうか?

下倉:

ゲームのインターフェイスやパッケージ、販促用のフライヤーやポスターなどの紙関係全般と『ととの。』の特設サイトなどです。

Alternative ADVならではの苦労点

本作のメインヒロインふたりをデザインする際にこだわった点を教えてください。

津路:

今回は、メインヒロインのふたりを並べた時に、あまりどちらかに好みが偏り過ぎる様な要素を入れないように気をつけようと常に考えていました。たとえば片方が巨乳、片方が貧乳となると、巨乳好きの人は必ず巨乳キャラにいってしまうと思うんですね。今回はそういう見た目で選ぶのではなく、脚本を読んで“自分はこっちのヒロイン”という選択をしてもらいたいかったんです。ですから、ふたりとも割とプレーンな、例えば“巨乳”などのわかりやすくて極端な記号は入れないように、でも差別化はされるように、というのを考えてデザインしています。最低限の記号としては、美雪は“ツンデレ&幼なじみ”なので黒髪ロング、アオイは“電波&淫乱”なので“フワッとした儚げな少女”という点だけ押さえて、あとは極力余計なものはなくしていこうという方向にしています。

アオイは一度、大きくデザインが変わっていますよね。

津路:

初期のアオイはもう少し幼いイメージだったんですが、脚本が大幅に変更になったことがありまして、そのシナリオとアオイのイメージが合わなくなってしまったんですね。“このままじゃ、アオイというキャラがダメになってしまう!”と思って、それまでの絵を全面リテイクして、今のデザインに変更しました。

下倉:

当初シナリオはもっとコメディー寄りというか、もっと軽くてポップなイメージだったのが、シリアスな“しっとりと落ち着いた”方向に変わったんですよね。そこでアオイのキャラクターデザインを変えてもらいました。

津路:

初期の脚本はもっと従来の美少女ゲーム的だったんですが、修正されたシナリオを読んだ時は“ああ、映画っぽいな”と感じました。

線もかなり細かいですね。

津路:

『スマガ』や『アザナエル』のキャラクターは、“制作時のスピード重視”でどんどん線を引いていけるようなデザインしていました。今回はそれをあえてやらずに“ゴシゴシこする”ようなワザと荒っぽい線にしたりしています。印刷すると線が途切れているように見えたりとか、あとは髪の毛も本数が多く見えるようにするとか、水彩風の背景を含めて少女漫画的なイメージにするとか、トータルで“儚い”とか“淡い”印象が出るように考えて制作しています。

サブキャラクターの曙雄太郎のデザインについてはいかがでしょうか?

津路:

脚本を読むと『スマガ』の宮本しか思い浮かばなかったんですが、そのイメージを払拭するのが大変でした。下倉から「そっちじゃないんだよ」と何度も言われて(笑)。その後、下倉から真面目にバカなことをやっている熱血キャラということで、『燃えよペン』の炎尾燃と言われて、今のデザインができあがりました。

ハルについてはいかがでしょうか?

津路:

ハルについては下倉からあまり細かい指定はなく、好きにやっていいよ、という感じでした。ですから、自分の好きな某タレントさんをイメージしてデザインしてみました。

本作のストーリー面についての見どころを教えてください。

下倉:

“Alternative(二者択一)”と銘打っているとおり、どちらのヒロインを選ぶの? という点に注力した作品になっています。さっきの津路の話にもありました通り、ユーザーさんに“どっちのヒロインを選べばいいのか!?”と悩んでもらえるように全力を注いでいるので、やはりその点が一番の見どころになると思います。某有名RPGの嫁を選ぶ場面で“オレは○○派”って言うプレーヤーって、自分の選択に誇りというか自信を持っていて揺るぎなかったりするじゃないですか。「もう一方のほうを嫁に選ぶなんてありえない!」とか(笑)。でも美少女ゲームだとああいう議論ってあまりされないと思うんです。そういった意味でも今回の『ととの』をプレーしたユーザーの間で、「オレは美雪派!」、「自分はアオイ派!」という感じで、盛り上がってもらえたら嬉しいですね。

前号のTECH GIANの記事で、美雪が血まみれのバットを手にしているなど、本作の猟奇的な一面が見えてきましたが……。

下倉:

“純愛”をテーマにした本作ですが、純愛も純粋過ぎると狂気を帯びてくるということですかね。

音楽面にも豪華アーティストが!

今回の音楽面での聴きどころについて教えてください。

下倉:

BGMについては、『スマガ』、『アザナエル』に引き続き、“Swinging Popsicle”のベースの“平田博信”さんに担当していただきました。作品の世界観に合わせるためにピアノをメインにした曲が多くなっています。あと挿入歌は、“いとうかなこ”さん。また、今回のオープニング曲に、“青春感”が欲しいなと思って、元19(ジューク)の“岩瀬敬吾”さんに依頼をしました。TECH GIANさんのDVDにもオープニングムービーが収録されているので、ぜひ聴いてみてほしいです。

でじたろう:

美少女ゲームでオープニングに男性ボーカルを使うのってウチはよくやりますけど、一般的にはあまりないですよね(笑)。でも、ムービーと合わせて聴いていただくと、非常に納得していただける仕上がりになっていると思います。

下倉:

あとエンディング曲に、“Swinging Popsicle”さんと“多田葵”さんに参加していただいています。どちらも曲単体で聴いても素晴らしいのですが、作品と合わせて聴くとまたさらに曲の深さがわかるような形になっていますので、ぜひエンディングまでたどり着いて、聴いていただきたいです。

今回、Webの展開も非常におもしろいですね。

でじたろう:

『ととの。』のTOPページは、実はニトロプラスの社内を定点カメラで映しているリアルタイム映像なんです。なので、たとえばTECH GIANさんが発売されたら、その表紙をポンと置くと、すぐにそれがWebに反映されるんですね。Webの更新ってタイムラグがあったり色々大変じゃないですか。それをデジタルとアナログの融合で解決するという画期的なものになっています(笑)。特定の時間帯に見にくると……という仕掛けも用意していますので、ぜひチェックしてほしいですね。

デバッグ中に、ニトロプラススタッフの間で、人気だったキャラを教えてください。

下倉:

キャラで言ったら雄太郎が人気でしたよ(笑)。メインヒロインのふたりについて言うと、「最初は美雪派だったけど、最後までプレーしたらアオイ派になりました」という人もいましたし、反応は色々ですね。でも最終的には、美雪派とアオイ派はちょうど半々くらいだったので、想定通りでシメシメ……と思いましたね(笑)。

最後にメッセージをお願いします。

津路:

今回はプラトニックな気分でプレーしてください。メッセージなどを読み飛ばしたりしないで、じっくりとプレーしていただきたいですね。世界観に浸っていると、きっといいことがありますよ。

下倉:

今回は作っていて色々と新鮮でした。各方面から“こういうアイデアが出たけどどう?”とか、ゲームを作っているというより“ゲームが完成されたがっている”というような感覚がありました。そういった意味で、自分的に作るのが非常に楽しいゲームだったので、それがユーザーさんまで伝わるといいなぁと祈りながら、ゲームの発売日を今か今かと待っております。

でじたろう:

先ほど本作の猟奇的な一面についての話題が出ましたが、そこって、この作品がやりたいものの中の1要素でしかないんです。あくまでそういう要素もありますよ、ということで。言ってしまうと、このゲームは現段階で出ている情報からユーザーのみなさんが予想される範囲では“終わらない”と思います。“今までに見たことのないゲーム”になってますので、ぜひご期待いただきたいです。

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