『Phantom』アニメ化に際して


Phantom

『Phantom』は、かなりドラマティックです。ストーリーがそうなのは当然ですが、『Phantom』の存在自体がドラマティックなのです。

美少女ゲームを知らなかったスタッフが10年前に作り上げた美少女ゲーム。それがTVアニメーション化となるのですから、これほどのドラマはそうそう有りません。しかも、タツノコアニメの黄金期に作品制作の一翼を担っていらしゃった“真下耕一”氏が監督をなさり、氏が率いるビィートレインがアニメーション制作。……偶然にも『Phantom』と類似点の多いアニメ作品「NOIR」の布陣です。かつて『Phantom』をDVDビデオゲームとして移植した製品を売り出したときに、ユーザー層が近いと考えて「NOIR」の宣伝枠でTVCMを流したことがあります。なんとも運命すら感じます。運命と言えば、シリーズ構成を担当される“黒田洋介”氏もそうです。『Phantom』をお任せできるのは黒田氏しかいないと願いながらも、「ガンダム00」という大作を背負われており、オファーが不可能な状況でした。しかし、パズルのようなスケジュール捻出と黒田氏の超人的なバイタリティによって参加が実現。まさにドラマティックな展開です。

思えば作り始めたときからドラマの連続でした。元小説家志望という“虚淵玄”にゲームシナリオを書かせながら、オーサリングプログラムができるからといってシステムまで作らせていました。雑誌のイラストを描いていたことがある“矢野口君”に原画を任せ、入社したばかりの社会人一年生だった“なまにくATK”に彩色を担当させて、背景描きがいないからといってグラフィックデザイナーだった“もえら”に3D技術をフル活用させました。8bitのファミコンゲームまでしか作ったことがない自分が唯一のゲーム制作経験者という状況。後に虚淵は「ニトロプラスはホワイトベースだった」と、素人集団が無謀な挑戦していた様をインタビューにて回想していました。とても的を得た比喩です。

『Phantom』の売れ方にもドラマがありました。販売目標2万本だったはずが、初期受注はわずか2000本足らず。情熱と夢に溢れて浮き足立っていた我々に厳しい現実が突きつけられました。しかし発売から一ヶ月後、撤退を悩んでいたところに1000本以上のリピート受注が。『Phantom』を購入してくださったユーザーさんたちが、ネットの口コミを通じて布教活動を行ってくれていたのです。さらに、流通やショップ、各雑誌媒体などが『Phantom』の売れ方に注目し、次々と販売促進に繋がる後押しをしてくださいました。コンシューマ版や改訂版など形を変えていきながら、現在までに『Phantom』はシリーズ合計で15万本を突破するに至りました。関係各所と、何より買ってくださった皆様に改めて御礼申し上げます。

ニトロプラスは1999年8月8日にホームページを立ち上げた日より起算すると、2009年で10周年を迎えます。この記念すべき時に『Phantom』のTVアニメーション化を果たすことは必然だったのではないでしょうか。今、目の前に『Phantom』アニメの設計図とも言える脚本と絵コンテが積まれています。否応なしに期待が高まるような素晴らしいクオリティであることをご報告いたします。

『Phantom』はまだまだドラマを生み出し、関わる方はどんどんと増えていくことでしょう。このドラマの渦中で皆様と感動を共有できれば、これほどうれしいことはありません。


ニトロプラス代表取締役・プロデューサー
でじたろう



Phantom -Requiem for the Phantom- 公式サイト